わたしの中にいる彼女のはなし
先日、やっとジオシティーズ移行したww
昔のホームページやブログを整理したついでに、書いたまま数年、アップしないでいた内容をあげてみます。
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ある町の乗馬施設を訪れた。
数年前、彼女が繁殖を引退して、移動した牧場だ。
私の住む街からはかなり遠い。すぐに行ける場所ではない。
初めてその町に行ったとき、怖くて寄れなかった。そのことを後悔したので、今回は行くことにした。
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大好きな馬のお母さんは、美人でやさしくて、温かかった。さすが彼のお母さんだと思った。
いつも逢いにいくと、背筋をすっと伸ばしたような雰囲気で迎えてくれて、美しいまなざしをこちらに向けるのだった。いっぱい話をして、辛いときは横でいっぱい泣いた。彼女はただ、横でのほほんとひたすら草を食むのだった。
繁殖を引退して移動することになったと聞いて、たくさん泣いた。でも、彼女はサラブレッドだから泣くのはこの日1回でやめることにした。
生まれ故郷の牧場は、繁殖を引退しても処分はせずにどこかの施設に移動させる。今回は、3頭一緒に、繁殖を引退したおとなしい馬をトレッキング用に使っているという、乗馬施設に行くことになった。彼女がかまってくれない時に遊んでいた、ほかの優しい2頭が一緒。この子たちとなら寂しくないだろう。
行き先があるんだし、ここでずっと幸せに過ごすんだ。
今までみたいに簡単に会いに行けない。
でももう、私のなかに彼女はいて、温かさやにおい、肌触り、みんな覚えている。だから大丈夫。
「馬運車から降りてきたその人は、猫を抱いて降りてきてね。」
牧場の人が言っていた。新しいところの人は、命を大事にする人なのだ。彼女はずっと、大切にされるんだ。
牧場の人からもらったたてがみとしっぽで、アクセサリーをつくって身につけていた。そのうちほつれてきたので、今は袋に入れて持ち歩いている。
私の中に彼女はいる。むやみに会いにいって、今いる施設の人に気を遣わせたくはない。
と思いつつ、いなかったら、という不安もある。
そのうち時間はどんどん過ぎていった。
馬は突然どうなるかわからないし、そのことで繋養先を責めるのもどうかと思う。だから、サラブレッドが引退した後は、できるだけ早く会いにいって、そう、ずっとここで暮らすんだ、その記憶をつくることで納得させる。そんなことをよくしていた。
それと同じく、移動してすぐに会いに行けば良かったんだ。その町に行った時にだって寄らなかった。いなければそれで納得がいく。もしいたのに会わなかったら?彼女が待っていたかもしれないのに。見知らぬ放牧地で草を食む彼女の姿を想像した。ねぇ、どうしているの?
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深い霧の中、その施設を訪れた。犬がいっぱいいて、きゃんきゃんとお出迎えを受けた。人はいない。奥の広い放牧地に、数頭、馬がいるようだ。
名前を呼んだ。呼べば私の声はわかるはずだ。私の存在にだって気付くだろう。
人の存在も気にせずに草を食み続ける馬たちの背中は、若い馬のように見える。鹿毛が2頭と、黒っぽい馬が2頭。
彼女は鹿毛で顔に印はない。一緒に行った子は青鹿毛だけど、ここにいる子とはちょっと雰囲気が違う。鹿毛の子だって、彼女とは違うみたい。
1頭、こちらからはよく見えなかった鹿毛が顔を上げた。白い流星が顔に見えた。
もう、彼女はここにはいないんだ。
寂しいとか、悲しいとかじゃない。
もともと心の中にいる彼女が、空の上にいる可能性が高くなったということだ。
温かな思いをずっと胸に抱くことで、強くなれたと思う。彼女のまなざしのように。
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彼女のことをネット上に書いたのは初めてだ。
思い出は全て、私だけの宝物だから。